自己有用感を高めればいじめは起こらない

TEACHER いじめはあかん

 いじめは集団で起こります。

 では、いじめが起こりにくい集団にするには、どうすればよいのでしょうか。

 文科省の研究結果から導き出された答えがあります。

 それは、一人一人の自己有用感を高めること。

 自己有用感が高い集団は、いじめが起こりにくいという結果がでています。

 つまり、いじめが発生するかしないかは、子ども一人一人の自己有用感にかかっているのです。

 そもそも自己有用感とは何でしょうか?

 文科省国立教育政策研究所は、自己有用感について次のように定義づけています。

「人の役に立った、人から感謝された、人から認められた、という自分と他者(集団や社会)との関係を自他共に肯定的に受け入れられることで生まれる、自己に対する肯定的な評価」

 最終的には自己評価であるとしても、他者からの評価を強く感じた上で形成される点がポイントになります。

 単に「学級でいちばん字がうまい」という自信ではなく、「学級のなかでいちばん英語が上手なので、英語スピーチコンクールの代表に選ばれた。みんなの期待に応えられるように頑張りたい」という自信です。厳密に言えば、学級でいちばんかどうかは重要ではありません。

 では、自己有用感はどんな場面で生まれてくるのでしょうか。

 自己有用感は、他者からの好意的な評価によって感じることができます。相手の良さを認めることで、自己有用感が生まれるのです。

 たとえば、次のような会話を考えてみましょう。

 生徒「おれ、苦手なこともあるけど、掃除だけは得意なんです。

    みんなのために、掃除を頑張ります。」

 先生「掃除が得意なんて、素晴らしいですね。

    いつも、自分のことだけではなく、みんなのために活動してくれて

    ありがとう。先生もがんばるわ。」

 先生だけでなく、子ども同士が互いの良さを認め合うことで、自己有用感に満ちあふれた居心地のよい学級へとつながっていくのです。

 子どもの自己有用感を高める上で、押さえておきたいポイントがあります。

 それは「褒める」と「認める」の違いです。

 大人は、「褒めること=認めること」だと思うかもしれません。

 しかし子どもには違いがあるようです。事実、「そんなこと褒められてもうれしくない」という発言もよく聞きます。

 いったい何が違うのでしょうか?

 どうやら大人は、子どもと接する場面においては、大人の基準で褒めていることが多いようです。その基準より高ければ「よくやったね」となり、低ければ「頑張りなさい」となります。

 しかし、子どもが「認めてもらいたい」と思うときは、大人ではなくその子の基準で褒めてほしい。その子なりのこだわりで努力したり、工夫したりしたことを認めてほしいのです。

 逆にいえば、自分がさほど努力もしていないことを「よく頑張りましたね」と褒められても、あまりうれしくないのです。

 子どもの行動と向き合うことなく、表面的にお世辞を言ったりちやほやしたりしても、子どもの自己有用感や自尊感情を高める結果には至らないでしょう。

 ここでアメリカの興味深い研究結果をご紹介します。

 1986年~1989年、アメリカのカリフォルニア州が予算24万5000ドル(2500万円相当)を支出して、「自尊感情と社会的結果にかかわる研究」を実施しました。大人が子どもを褒めることで自尊感情を高めれば、問題行動が減るのではないかと考え、実験をおこなったのです。

 その結果は意外なものでした。10代の妊娠、飲酒、薬物乱用といった問題行動と自尊感情の関係は、かぎりなくゼロ。ほぼ無関係であると結論づけたのです。

 子どもたちを徹底して褒めることで自尊感情を高めようとする教育は、自分勝手で自己中心的な子どもが増えるという当初の目標とはほど遠い結果に終わりました。

 大人の基準で褒める教育活動だけでは、「俺が、俺が」と自己主張するわがままな子どもが増えてしまうのです。

 自尊感情は、自分に対する自己評価が中心です。それに対して自己有用感は、自分に対する他者からの評価が中心となります。「人の役に立った」「人から感謝された」「人から認められた」など、相手の存在なしには生まれてこないという点で、自尊感情とは異なるのです。

 また、自己有用感と自尊感情は、自己を肯定的にとらえる点では同じですが、他者の存在を前提としない自尊感情は社会性に結びつくとは限りません。

 自己有用感に裏づけられた自尊感情を高めなければいけないのです。

 ここまで踏まえた上で、いじめが起こらない集団をつくる手順は次のようになります。

 ・日々の教育活動に「自己有用感」を育む視点を入れる

  ↓

 ・社会性が育まれ、他者を攻撃する可能性が低くなる

  ↓

 ・いじめが起こりにくい集団が形成される

 自己有用感を高めるためには、子ども同士が互いの良さを認め合う環境にする必要があります。どのような教育プログラムを組めばよいのでしょうか。

 ひとつの例として、栃木県教育委員会が実施した自己有用感の研究結果を紹介しましょう。

 自己有用感は、おもに「存在感」「承認」「貢献」という三つの要素から構成されています。これらが互いに関連しあうことで、自己有用感が高められるのです。

 ・存在感…自分は他者や集団の中で価値ある存在である

 ・貢献……自分は他者や集団に対して役に立つ行動をしている

 ・承認……自分の行動や存在は、他者や集団から認められている

 まず土台として、安心感や信頼感という関係性が必要です。その上で、自己有用感の三要素である「貢献」「承認」「存在感」を高めることが大切です。研究では、その手立てとして4つのポイントを示しています。

 1 教師が子どもをよく見て、その子に応じて認める

 2 教師が子どもの話をじっくり聴いたり、子どもに話しかけたりする

 3 子どもに活躍の場を与えて、見守り、やり遂げさせ、達成感を味わわせる

 4 子ども同士が認め合う場を設定するなど、人間関係づくりを支援する  この4点を日々のさまざまな教育活動で実践していくことが大切です。