自己有用感を高める実践「大縄跳びの奇跡」

EXPERIENCE いじめはあかん

 「先生、私の机の上が真っ白です……」

 2学期のある朝、職員室に入ってきて泣きながら彼女が言いました。

 急いで教室に行ってみると、

 彼女の机一面に白いチョークの粉がまき散らされていました。

 絶対に許されない、いじめ行為です。

 私はすぐさま、ぞうきんでチョークの粉をふき取り、

 「心配せんといてな。先生が絶対に守るからな。大丈夫」

と、必死の思いで声をかけていました。

 彼女はずっと泣いていました。

 「誰や、こんなひどいことをしたやつは……絶対に許せない」と思いながら、まず彼女を保健室に連れていきました。そして私は、いじめ事案の報告をするために職員室にいきました。

 そこでわかったのは、前日の放課後、私のクラスの子どもが遅くまで学級に残っており、他の教師が注意していたという事実。

 「やったのは、うちの学級の子に間違いない。でも、どうして……」

 戸惑いながらも、

 「いじめは絶対に許さへん! かならずよい結果に結びつけてみせる」

と考え、学級でとことん話し合うことにしました。

 長い長い話し合いでした。その中で、実は私がやりました、と男女2名ずつが手をあげて泣き出しました。

 また、ほとんどの子が彼女をいじめたことがある、ということもわかりました。その理由は、服装や話し方が少し変わっていたから。

 その日の放課後、校長先生や学年の先生とともに、彼女の家へ家庭訪問に行き、事実の報告と、安心できる学級にすることを誓いました。

 でも、いったいこれからどうすればいいのか。本当に悩みました。

 そんな時、先輩の先生から、

 「荒井先生、みんなで何か目標を立てて達成させる、というのはどう?」

とアドバイスを受けたのです。

 次の日、私は真剣に訴えていました。

 「人と違うって悪いこと? 顔、声、好きなもの、みんな違うやろ。違いがあるから人間って素晴らしいんじゃないの?」

 気がつくと、私は泣きながら訴えていました。

 「この学級は最悪な状態や。本当に悲しい。でも、先生は日本一良い学級にしたい。みんなはどう思う? 思いやりあふれる学級にせえへんか? みんなが心を一つにしたら、絶対にできるはずや」

 「そう思うなら、全員でできる目標を決めて、

 取り組んでみないか? 君らだけで考えるんや」

 子どもたちの輝く目を今でも覚えています。

 「先生は○時○分まで職員室にいます。それまでに君たちだけで話し合って、目標が決まったら先生に報告しにきてください」

 そう言って職員室に帰ってきたのですが、居ても立ってもいられません。

 けんかが起こっていないだろうか? ちゃんと話し合っているだろうか?

 何度も廊下をウロウロしていました。

 「荒井先生、決まりました」

 いじめ加害者だった子が報告にきました。

 教室に戻り、決めた目標を聞いてみると、何と、

 「大縄跳びで千回達成する」

というのです。

 内心、「千回は無理だろう……目標を変えさせたほうがいいかもしれない」と思いました。しかし子どもたちの思いも大切にしたい。

 「よし、君たちが決めた目標や。挑戦しよう。いつまでに達成するかが大切です。

3週間後、○月○日の学級活動の時間に達成しよう」

と言いました。そこから「大縄跳び千回」の挑戦が始まったのです。

 子どもたち自身が決めて取り組むということは、心に火をつけます。

 朝、休み時間、放課後も、子どもたちの声が校庭に響きました。

 数日後、いじめの加害者だった子が作文を書きました。

 「私のせいで、みんなにイヤな思いをさせてしまった。だから絶対に千回跳びたい」

 「ドンマイ、ドンマイ」

 いつしか練習で、縄に引っかかってしまった子に対し、いたわりの声がかけられるようになりました。引っかかる子はたいてい決まっていました。いじめられていた彼女です。しかし、失敗しても彼女の表情が暗くなることはありません。

 練習も2週目に入ると、さまざまな工夫が加えられました。誰が縄を回すと跳びやすいかを試したり、どうしても引っかかってしまう子の後ろに上手な子を配置して、縄に入るタイミングを教えたりしていました。

 迎えた本番の日。

 どうがんばっても、千回にはおよびません。200回、300回で引っかかってしまうのです。

 しかし、子どもたちが協力して跳ぶ姿を見て、まさに日本一の学級だと確信しました。

 もうすぐ学級活動の時間が終わります。子ども全員を集めてこう語りました。

 「君たちは、本当にがんばった。君たちの姿は、思いやりにあふれている。まさに、日本一やさしい学級になったんや。みんなの力はすごいな。千回には及ばなかったけど、みんなは勝ったんやで」

 それを聞いた一人の女の子が立ち上がりました。

 「先生、どうしても千回跳びたいです。みんなで一度決めたことだから」

 私が

 「みんなどう思うの?」

と聞くと、

 「ぼくも跳びたい」

 「やっぱり千回跳びたい」

と大合唱です。しかし、この練習に対し負担を感じている子がいるかもしれません。その心配もふまえ、次にように提案しました。

 「わかった。あと1週間だけがんばろう。1週間後にもう一度チャレンジしよう」

 そして一週間後の再挑戦。

 なんと、見事に成功したのです。

 1817回。快挙でした。

 千回を超えたあたりから、泣きながら跳んでいる子がたくさんいました。

 私も感動で泣いていました。

 終わったあと、

 「すごいぞ!やったー!」

と、みんなで喜びを分かちあいました。今でもその瞬間を思い出すだけで涙があふれてきます。

 その後、いじめは止まりました。一度もいじめは起こりませんでした。

 3学期の終わり、いじめられていた彼女から手紙が届きました。そこには「私は先生の学級になれてよかった」と書かれていました。