Arasenblog Witten by Ryuichi Arai

最強の学校いじめ対応マニュアルはこれだ!

いじめ 新任教師応援㌻

 学校現場や教育委員会で学んできた私が、最適だと思う「学校いじめ対応マニュアル」を紹介します。ある学級で午前中にいじめが発生した場合を想定して、「いじめ対応の流れ」について説明していきます。

1. いじめの発見

 

 いじめを発見した、もしくは通報を受けた教師は、いじめ対策組織に報告します。
 いじめ対応は、個人で行動してはいけません。いち早く対応するため、組織に報告する必要があります。

 ここでのポイントは、「迅速に組織へ報告」です。
 もちろん、いじめられている場面を目撃したならば、その行為を止めることが先決です。被害者の安全を確保した上で、迅速に報告します。

 もう一つのポイントは、管理職をはじめ生徒指導主事などの担当者が報告しやすい環境を整えておくこと。「いじめはどこの学級でも起こる。だから一人で抱え込まず、一人で判断せず、すぐ報告しましょう」と日ごろから訴えておくことが大切です。

 国の基本方針には、次のように書かれています。

「一人で抱え込まず、一人で判断せず、他の業務より優先して、学校いじめ対策組織に報告しなければならない」

 もし子どもからいじめの報告や相談があったにもかかわらず、速やかに具体的な行動をとらなければ、子どもは「報告・相談しても何もしてくれない」と思い、これ以降いじめについて話してくれなくなるかもしれません。だから速やかに、いじめ対策組織へ報告する必要があるのです。
 いじめ行為をいじめ対策組織に報告せず、抱え込んでいることが明らかになれば、処罰の対象になります。これは国の基本方針にも明記されています。

 迅速に報告といっても、教師は授業の連続です。休んでいる暇もありません。学校によっては、報告を手早くおこなうため、「いじめ発見報告カード」を徹底しているケースもあります。カードには「いつ」「どこで」「誰が誰に」「どのようないじめ
をしていたか」を書けるようになっています。

 また、誰に報告するか決めておくことも大切です。まずは○○先生、いなければ○○先生、どちらもいなければ○○先生、と明確に決めておきましょう。
 いじめ対応はスピードが命です。ただちに組織で対応するためにも、第一発見者の迅速な報告が何よりも大切なのです。

2. 第1回緊急対策会議の開催

 発見者から報告を受けたいじめ対策組織は、第1回緊急対策会議を開催します。

 この会議の目的は主に2つです。

  •  1 発見・通報を受けた状況を確認する
  •  2 聴き取りを実施する体制を整える

 ここでのポイントも、「迅速に会議を開催する」です。
 当然ながら教師には授業があるのでスケジュールを工夫して開催しなければなりません。いじめは一大事であり、命にかかわる問題に発展する可能性もあります。場合によっては自習体制を組んででも開催することを検討しましょう。

 二つ目のポイントは、子どもたちへの聴き取りを実施できる教師が出席するということです。
 基本的には、一人の子どもに対して二人の教師(聴き取り役と記録係)が聴き取りをおこないます。担任一人だけで実施するのは簡単ですが、できる限り聴き取りの時点から複数体制で臨んでください。
 この会議に参加するメンバーは「聴き取り」「家庭訪問」の実施を見据えて決定します。

 三つ目のポイントは、この会議から記録係を決めて、会議録をパソコンなどに入力しておくことです。対応記録は今後、一貫した指導をおこなうために必要であり、全教職員と情報共有するための資料になります。万が一、重大な事態へ発展した際には、自分たちを守るための資料にもなります。いつ、どこで、誰が、何を決めたのか、何を話したのか、誰からどんな話があったのか、しっかり記録していきましょう。
 「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」には、いじめに関する記録の保存として、次のように書かれています。

「原則として各地方公共団体の文書管理規則等に基づき、これらの記録を適切に保存するものとするが、個別の重大事態の調査に係る記録については、指導要録の保存期間に合わせて、少なくとも5年間保存することが望ましい」

 教育委員会によっては、「第一次資料(いじめアンケート等)は児童生徒が卒業するまで保管。第二次資料(いじめに関する対応記録・議事録等)は5年間保管」とガイドラインに示しているところもあります。

 国の基本方針には次のように書かれています。


「発見・通報を受けた当該組織は、その後、組織が中心となり、速やかに関係児童生徒から事情を聞き取るなどして、いじめの事実の有無の確認を行う

 重ねて述べますが、いじめ対応はスピードが命です。
 いじめの対応は、複数の教師が団結する体制を作れるかどうかがカギとなります。
 そのためにも、第一回目の会議は重要です。学校長はドーンと構え、全員がこのいじめ事案をきっかけに成長させる決意をもち、前向きに取り組める雰囲気を作りましょう。
 加害者への聴き取りをおこなったら、その日のうちにかならず保護者への面談も実行してください。なぜなら加害者の保護者、あるいは加害者自身がいじめの隠蔽を図る可能性があるからです。
 もしいじめの発見が下校間際であれば、加害者への聴き取り時間が十分に確保できない可能性があります。加害者への聴き取りは、翌日に計画することも検討すべきでしょう。

3. 聴き取り

 いじめにかかわった子どもに聴き取りをおこないます。
 ここでいうかかわった子どもとは、被害者、加害者、目撃した子どもなどです。重大な事案については学年のすべての子どもが対象となる場合も出てくるでしょう。
 理想としては、子どもが下校するまでに、聴き取りを完了させたいところです。

 聴き取りは徹底した事実確認が重要です。
 いつ、どこで、誰と誰の間に、何をきっかけに、どういう言葉が交わされ、何がおこなわれたのか。それを目撃していたのは誰と誰なのか、目撃した子どもたちの目にそのいじめはどう映っていたのか。
 これらの事項を確認せずに指導することはできません。

 加害者への聴き取りのポイントは、「どうしてこのようないじめをしてしまったのか」をていねいに聴き出すことです。

 どんな事情があったとしても、いじめ行為はいけないことですが、とにかくいじめてしまった理由とその背景を聴き出すことが大切なのです。
 理由を聴き出し、共感した上で、してしまったことはダメなんだと毅然とした態度で指導する。そうすることで加害者は、「先生は自分の話をしっかり聴いてくれた。その上で叱ってくれた」と感じるのです。

 その後、家庭訪問で加害者の保護者に事実などを伝えに行きます。そこで加害者の保護者が「先生は被害者ばかり話を聞いている!エコひいきしている!」と炎上するパターンがよくあります。しかし、いじめた理由や背景までしっかり聞いたことを伝えれば、結果は変わるはずです。

 加害者が複数いた場合は、聴き取りの結果、話が合わない箇所がでてくることもありえます。その場合は、話が合うまで徹底して確認してください。最終的に嘘をついていた子どもには、それによって事態の解決を長引かせた要因となったことをしっかり指導しなければなりません。

 被害者への聴き取りは、まず安心させることが第一です。ひどく心が傷ついているので、絶対に先生が守るから安心してほしい、と伝えましょう。また、被害者は「いじめられるのは、自分にも悪いところがある」と思っているケースが多くあります。 「いじめる方が100%悪い。いじめていい理由なんてない。あなたは悪くない」と教えてあげてください。

 国の基本方針には、、次のように書かれています。
「いじめられた子どもから事実関係の聴取を行う。その際、いじめられている子どもにも責任があるという考え方はあってはならず、『あなたが悪いのではない』ことをはっきり伝えるなど、自尊感情を高めるよう留意する」

 実際には、聴き取りが不十分で何回もやり直すケースがあるようです。それを防ぐためにも、学校で統一した「聴き取りメモ」を作成しておくことをおすすめします。
 聴き取る項目は次のとおりです。

  •  ①誰が誰をいじめているのか(加害者と被害者の確認)
  •  ②いつ、どこで起こったのか(時間と場所の確認)
  •  ③いつ頃から、どのくらい続いているのか(期間)
  •  ④どんな内容のいじめか?どんな被害を受けたのか(内容)
  •  ⑤いじめのきっかけは何か(背景)
  •  ⑥いじめをしてしまった動機は何か(要因)
  •  ⑦いま、どう思っているのか?(心情)

 聴き取りをていねいにおこなう。これがいじめ対応の基本です。聴き取りをおろそかにすれば、いじめの解消はできません。いじめの対応はスピーディーかつ、ていねいに実施しましょう。

4. 第2回緊急対策会議の開催

 聴き取りが終わった段階で、いじめ対策組織は第2回緊急対策会議を開催します。
 この会の目的は主に4つです。

  •  1 いじめの有無を判断する
  •  2 今後の対応方針を決定する
  •  3 被害・加害者の保護者に報告する内容と方針を確認する
  •  4 誰が保護者に伝えるかを決定する

 いじめの有無は、「いじめの定義」をもとに判断してください。
 いじめの基礎基本で確認したとおり、被害者が心身に苦痛を感じているかどうかが最重要ポイントになります。
 ※いじめの基礎基本で述べた例外も含めて、客観的に判断してください。

 今後の対応方針を決めるポイントは、大きく2つです。

  •  1 被害者を守りきることを大前提とする
  •  2 「5つの視点」と「3つの指導段階」から方針を考える

 ここから、「5つの視点」について説明します。

【視点1】被害者の対応

 被害者には、まず安心させることが重要です。もういじめは起こらない、先生が守ってくれると思ってもらうように対処することです。”

 安心させる例としては、次のような対処が挙げられます。

  • 学級に複数の教師を配置する
  • 登下校の時間をずらし、大人がつきそう
  • 休み時間や掃除の時間、朝の時間、終わりの時間などに教師が見守る
  • 信頼できる○○先生にいつでも相談してもいいことを伝える
  • 帰りに「今日は何もなかったか」と子どもに声をかける
  • いじめが深刻な場合には、いじめた子どもを別室で勉強させる

 もう一つ重要な点は、自尊感情の向上です。
 被害者は「自分にも問題があるからいじめられたんだ」「家族に迷惑をかけてしまった」「自分なんていないほうがいい」などと考えているかもしれません。被害者の心は、いじめられたことでボロボロになっています。
 あなたは悪くない。いじめる方が100%悪い。あなたはいじめる側ではない、だから尊貴な人であることを教えてあげてください。

【視点2】被害者の保護者の対応

 被害者の保護者には、事実を正確に伝えること、安心させることが何より大切です。被害者を安心させる具体的な支援を伝えてください。また、

  • 保護者のつらい気持ちや不安を共感的に受け止める
  • 家庭と連携を取りながら、解決に向かって継続的に取り組む
  • 家庭でも子どもの変化に注意し、些細なことでも相談してほしい

といった内容も伝えましょう。

【視点3】加害者の対応

 加害者には、事の重大さを理解させ、心からの謝罪ができるよう粘り強く指導してください。
 被害者の心身に重大な打撃を与えている場合は、一定期間、別室で学習させるべきです。また、警察と連携して指導することも躊躇してはいけません。
 いじめは絶対に許さないという毅然とした態度で、厳しく指導すべきなのです。
 その上で大切なのは、成長支援という観点から指導すること。「人は誰でも失敗してしまう。これをきっかけに成長できる。本当に強くやさしい人間に変わるのは今である」という観点から、激励していってください。
 加害者の背景には、過剰なストレスを抱えている場合があります。そのストレスを除去する支援や発散させる方法を教えてあげることも検討すべきでしょう。

【視点4】加害者の保護者の対応

 加害者の保護者には、まず事実を正確に伝えましょう。そのうえで、事の重大さを認識させ、我が子も大切にされていると思わせることが大切です。
 被害者とその保護者がダメージを受けていることを、ストレートに伝えてください。また、いじめは決して許される行為ではないという毅然とした態度を示し、家庭での指導を依頼すること。
 我が子も大切にされていると思わせるため、「教師が加害者に対し時間をかけて、いじめてしまった原因や背景を聞いた」という事実を伝えてください。「いじめたいなんて誰も思っていません。しかし、してしまった。それにはこんな理由があったのです」というストーリー。それを教師が理解し、加害者の保護者に話せるかどうかがポイントになります。
 また、子どもの変容を図るために、今後の関わり方を一緒に考え具体的な助言をするなど、連携しながら支援を続けてください。

【視点5】周囲の子どもの対応

 いじめは集団の問題です。観衆や傍観者が「いじめは絶対に許さない」と認識し行動に移せば、いじめは起こりにくくなります。
 教師は、いじめは決して許されないという毅然とした態度を子どもたちに示してください。はやし立てたり見て見ぬふりをしたりする行為も、いじめを肯定しているということ。それも理解させる必要があります。
 また、いじめを訴えるのは正義に基づいた勇気ある行動であることも指導してください。その上で、当事者だけの問題にとどめず、学級、学年、学校全体の問題として考え、傍観者から仲裁者への転換を促すのです。

 次に「3つの指導段階」を説明します。これは加害者への指導ステップです。
 いじめを解消するための最大の焦点は、加害者が心からの謝罪ができるかどうか。「もう二度とこのようないじめをしません」「本当に申し訳ない」と反省することが目標になります。それを達成するための3つの指導ステップについて、順に見ていきましょう。

  • 第一段階は、自分の行為を正しく認識すること。
  •  「正しく認識する」とは、自分の行為によって相手とその家族を苦しめてしまった事実を理解することです。
  • 第二段階は、自分の行為を反省すること。
  •  「反省する」とは、人を傷つける行為をもう二度としない、という誓いを立てることを意味します。
  • 第三段階は、自分の行為の責任をとること。
  •  「責任をとる」とは、傷つけた相手に心から謝罪し、今後の振るまいを通して、相手を安心させることです。

 この会議では、聴き取り内容から「いま、加害者はどの段階なのか」「今後、第三段階までどれくらいの時間を要するのか」といった点を確認します。
 いつまでに、どのような指導で第三段階を目指すのか、方針を立ててください。

 注意すべきポイントは、被害・加害者の保護者に対し、不確かな情報を伝えないこと。正確でない情報を伝えてしまったがゆえに、保護者が学校に不信感を持ってしまい、二次的な対応に追われたというケースを何度もみてきました。
 ・現時点で伝えられる内容は何か?
 ・伝えるべき学校の対応方針は何か?
 これらをしっかり確認しましょう。
 保護者には、かならず複数の教師で面談してください。担任まかせにしないこと。電話で済ませるのではなく、対面して伝えることが大切です。

 この会議で話し合うべき内容は重要です。なぜなら、

  • 被害者をどう守っていくのか
  • 加害者に事の重大さをどう認識させるのか
  • どうやって責任をとらせるのか

といった重要な対応方針を決定するからです。
 この方針がしっかりしていれば、家庭訪問で保護者をしっかりと味方につけることができます。

5. 被害者宅への家庭訪問

 発見・通報があったその日のうちに、複数の教師が家庭訪問などで面談し、現時点での正確な事実と学校の方針をていねいに伝え、今後の対応を協議します。

 ここでの目的は、正確な事実をていねいに報告することと、被害者とその保護者を安心させること。いじめから守るための具体的な手立てを提示してください。

 また、学校として、加害者が心から謝罪ができるように指導する旨を伝えます。

 国の基本方針には、次のように書かれています。
「家庭訪問等により、その日のうちに迅速に保護者に事実関係を伝える。いじめられた児童生徒や保護者に対し、徹底して守り通すことや秘密を守ることを伝え、できる限り不安を除去するとともに、事態の状況に応じて、複数の教職員の協力の下、当該児童生徒の見守りを行うなど、いじめられた児童生徒の安全を確保する」

 もし被害者が信頼している教員がいれば、その教員とつなげましょう。家庭訪問に同席させることはもちろん、今後その先生に相談できる体制をつくることも大切な支援です。
 この家庭訪問のカギは、被害者とその保護者に「学校の先生は加害者から守ってくれる」と安心させることができるかどうか、なのです。

6. 加害者宅への家庭訪問

 聴き取りをしたその日のうちに、複数の教師が家庭訪問などで面談し、現時点での正確な事実と学校の方針をていねいに伝え、今後の対応を協議します。

 いじめ問題でトラブルになる要因の一つが、加害者の保護者です。

 うちの子だけが悪者か? 学校は被害者の味方じゃないか!」と炎上し、大人の問題へと発展していく場合すらあります。

 家庭訪問の最大の目的は、加害者の保護者に事の重大さを認識させること。そして、加害者である我が子も大切にされている、と思わせることです。

 まず、事の重大さを認識させるため、被害者および保護者が受けた心身のダメージを伝えましょう。そのうえで「我が子も大切にされている」と思わせるには、時間をかけて加害者への聴き取りを実施すること。特に、なぜいじめてしまったのか、背景や要因をていねいに聞いてください。それを伝えることで、「先生は、我が子がなぜいじめてしまったのかも時間をかけて聞いてくれている」と思わせることができるのです。

 この家庭訪問はかならず、聴き取りをしたその日のうちに実施してください。日をまたぐと加害者の保護者、あるいは親子が結託して、いじめの隠ぺいを図る可能性があるからです。

 国の基本方針には、次のように書かれています。
「事実確認の結果は(中略)被害・加害者の保護者に連絡する」「事実関係を聴取したら、迅速に保護者に連絡し、事実に対する保護者の理解や納得を得た上、学校と保護者が連携して以後の対応を適切に行えるよう保護者の協力を求めるとともに、保護者に対する継続的な助言を行う」

 加害者の保護者が子育てに悩んでいるケースもあります。その際には、スクールカウンセラー(心理の専門家)やスクールソーシャルワーカー(福祉の専門家)を紹介し、専門的な視点から支援しましょう。
 ともあれこの面談は、加害者の保護者に対し「我が子も大切にされている」「これをきっかけに我が子を成長させていきたい」と思わせることがカギとなります。

7. 第3回緊急対策会議の開催

 各保護者との面談後に、第3回緊急対策会議を開催します。
 この会議の目的は主に2つ。

  • 家庭訪問の内容を確認する
  • 明日の対応を決定する

 ここでのポイントは、学校の対応方針の修正です。
 おそらく各保護者との面談により、さまざまな要望が出てくるでしょう。例えば、

  • 教室に入れないといっているので、別室対応してほしい
  • 登校の時間をずらしたい
  • 登校班を変えてほしい
  • もう少していねいに聴き取りをしてほしい
  • 加害者を教室の前で謝罪させろ

などです。これらの要望に応える場合もあれば、時間をかけて保護者の間違いを正さなければいけないこともあります。

 もう一つのポイントは、明日の朝一番から動ける体制を決めておくこと。

  • もし、登校班の集合場所にこなかったらどうするのか?
  • 誰が迎えに行くのか?
  • 玄関では誰が迎えるのか?
  • 朝の時間、教室の見守りは誰がするのか?
  • 休み時間の見守りは誰がどこでする?
  • 昼休みの見守りは誰がどこでする?
  • 掃除時間の見守りは誰がどこでする?
  • 授業中は担任だけで大丈夫か?
  • 明日の指導は誰がいつ実施するのか?


 最悪の場合も想定して、体制を整えておくべきでしょう。この会議では、今後の対応をどのように修正するかを話し合い、明日の具体的な対応を確認してください。

8. 教育委員会へ報告

 学校いじめ対策組織は、いじめと判断したら教育委員会へ報告することが義務づけられています。
 教育委員会への迅速な報告は、保護者の信頼に結びつくことも知っておいてください。私は市教育委員会に勤務していますが、ここ数年、被害者の保護者から「○○学校から、いじめの報告は入っていますか?」という、学校への怒りと不信感に満ちた連絡が入ることがしばしばあります。
 私が所属している市では、いじめの判断から24時間以内に教育委員会へ報告することを学校に徹底しています。保護者に対し、「○○学校から報告は入っています。いじめと判断して、迅速に組織対応すると聞いています」とお答えすると、態度が一変して落ち着いたというケースもたくさんありました。
 とくに最近の保護者は、「学校はいじめを隠蔽する」「いじめ対応が遅い」という偏見をもっているようです。このような意味からも、学校はできるだけ早く教育委員会に報告しましょう。
 とくに重大ないじめの場合は、いじめを認知したらすぐに、教育委員会に口頭で報告しておくこと。それ以外は、各教育委員会が指定した方法にのっとって報告しましょう。決まっていなければ、いじめと判断した24時間以内に、文書で教育委員会へ報告することが望ましいでしょう。
 記録係を任命された教師は、第3回緊急対策会議の終了時点で「いじめ報告書(速報)」が完成している状態をめざしてください。
 国の基本方針には、次のように書かれています。


「事実確認の結果は、校長が責任を持って学校の設置者に報告する」

9. 指導

 被害者、加害者への指導です。
 ※周囲の子どもたちへの指導は、謝罪後の再発防止で触れます。
 まず被害者を指導する目的は、安心させることと、自尊感情の向上です。
 そして加害者を指導する目的は、自分の行為を正しく認識したうえで反省し、責任をとること(心からの謝罪をおこなう)になります。

 ここでのポイントは、加・被害者が信頼している教師が指導すること。
 ラポールという言葉をご存知でしょうか?
 フランス語で「橋をかける」という意味の言葉ですが、心理学では「親密な関係」「信頼関係」などと訳されます。
 あなたが打ち解けた状態にいるとき、相手のことを信頼しているとき、一緒にいて楽しいと思えるとき、ラポールが形成されている状態であるといえます。
 ラポールが形成されている人には、ふだん言いにくいことや抑え込んでいた思いを出せるようになります。また逆に、相手の言うことを素直に聞くことにもつながります。
 担任と子どもとの間でラポールが形成されていない場合は、ほかの手段も検討してください。もし担任以外にラポールが形成されている教師がいれば、指導を任せることも一つの手です。担任による指導が基本ですが、それに固執してはいけません。なぜなら、これは命にかかわる問題だからです。
 もう一つのポイントは、指導を一人で抱え込まないこと。経過をいじめ対策組織で確認しながら、指導をすすめることが大切です。
 国の基本方針には、次のように書かれています。


「いじめられた児童生徒にとって信頼できる人(親しい友人や教職員、家族、地域の人等)と連携し、いじめられた児童生徒に寄り添い支える体制をつくる。いじめられた児童生徒が安心して学習その他の活動に取り組むことができるよう(中略)環境の確保を図る」

 まず被害者には安心と自信を与え、その後、加害者が心から被害者へ謝罪できるように指導することが大切です。

10. 謝罪

 加害者が心から被害者へ謝罪できる状態になったら、謝罪の場を設定します。
 謝罪の目的は、被害者を安心させるため。被害者が謝罪を受け入れ「これでいじめ行為は止まる。もう大丈夫だ」と安心できるかどうかがカギとなります。

 ポイントは、保護者同席のもとで謝罪させることです。
 いじめは、被害者および保護者の心身に大きなダメージを与える行為です。軽く考えてはなりません。もう二度と繰り返させてはならないのです。
 だから、保護者も同席させて「おおごと」にする必要があります。子ども同士の謝罪だけで終わらせてはいけません。
 自分の親が、一緒に頭を下げている。これは加害者にとっては大きな打撃です。このようなことを繰り返してはならない……そう思わせることが大切です。
 また、自分のために親が一緒に謝罪してくれるということは、心の奥底で愛情を感じることにつながるのではないか、と私は思います。謝罪の場は、加害者にとっても成長するチャンスになると私は信じています。

 もう一つのポイントは、謝罪の場を学校に設定すること。
 よくあるトラブルの例を挙げましょう。
 加害者の自宅へ家庭訪問した際、保護者が「申し訳なかった。すぐに被害者の自宅へ謝りに行きます」という話になりました。そこで教師は一件落着とみなし、保護者間だけで謝罪を完了させようとしてしまいます。
 しかし、謝罪の場でトラブル発生します。
 被害者の保護者が、加害者の保護者に暴言を吐き、叱りつけてしまうのです。その発言を聞いた加害者の保護者が反論し、さらに被害者の保護者は「まったく反省していない。明日から我が子を登校させることはできません!」と、次は学校を攻撃してしまうのです。
 こういったトラブルを避けるためにも、謝罪の場は学校の校長室などに設定し、教師によって進行することがベストです。
 進行例を紹介しましょう。

  • ①学校長より謝罪
  •  いじめが学校の管理下で発生したのなら、まず学校側が謝罪すべきです。
  • ②生徒指導担当者より経過報告
  •  いじめの発生から指導までの経過を説明します。
  •  まずは、被害者および保護者が心身ともに苦しんでいたこと、そして加害者が心から反省し、謝罪したいという思いがあることも伝えます。
  • ③加害者および保護者から謝罪
  • ④被害者および保護者から意見
  • ⑤学校より今後の対応について説明
  •  今後3ヶ月間は見守り期間として支援することを、具体的に述べます。
  • ⑥学校長より一言
  •  今後、二度といじめ行為が発生しないよう、学校、家庭、地域が連携して取り組んでいくことを述べます。

 国の基本方針には、次のように書かれています。


「いじめは単に謝罪をもって安易に解消とすることはできない」

 ともかく、この謝罪により被害者および保護者が安心すること。それが何より大切です。加害者および保護者に対しても、事前に目的や流れを説明するなどの準備をしておきましょう。

11. 再発防止の支援を実施

 いじめは再発する可能性が高いため、謝罪から3か月間が勝負です。この間に被害者、加害者、周囲の子どもたちに対する具体的な支援を実施していきます。
 それぞれの目的は次の通りです。

  • 被害者の心の回復
  • 加害者が抱えるストレスなど問題の除去
  • 集団が新たな活動に踏み出すこと

これらをもってはじめて、本当の意味でいじめ問題を乗り越えた状態といえます。

 ここでのポイントは、関係機関を巻き込むことです。
 被害者の心がひどく傷ついている場合は、心の専門家であるカウンセラーにつなぎましょう。
 加害者が抱えるストレス要因が家庭環境にある場合は、福祉の専門家であるソーシャルワーカーにつなぎましょう。
 いじめは人権を脅かす恐ろしい行為です。それを教えるため、集団に対して弁護士や警察官から指導してもらうのも一つの手です。
 活用できる資源はすべて使いましょう。

 もう一つのポイントは、ケース会議を開いて支援方法を決定すること。ケース会議とは、個別の対応が必要な子どもについて情報の交流をし、今後の支援方針を具体的に決めていくためのものです。
 この会議には、支援する関係教員とともに、カウンセラーやソーシャルワーカーなども参加してもらい、目標、支援方法および計画を立てていきます。
 ケース会議の流れを説明しましょう。

 ①準備

  日程調整や参加者の選定。
  レジュメ、子どもの様子をまとめた書類を作成。
  当日の司会と記録係を決定。
  参加者に、会議で何を話し合うか、どのように進めるかを事前に周知しておく。
 ②問題の明確化
  子どもや家族状況について情報を共有する。
  問題を行動レベルで確認していく。
 ③本人の強み確認
  支援で役立ちそうな本人の「強み」を探す。
 ④目標設定
  期間は3か月。
  そのあいだでどのように変わってほしいのか、肯定的な表現で具体的に考える。
  目標を行動レベルで確認し、明確にする。
 ⑤問題の背景要因の検討
  問題行動に影響を与えていると考えられる背景や要因を検討する。
 ⑥支援方法について案を出し合う

  目標に近づくために、何をすればよいかを考える。
  誰がいつ、どこで、どのくらいの頻度でおこなうのか、支援方法を発表する。
 ⑦支援方法を決定
  効果が高く実現可能なものを選ぶ。
 ⑧支援計画を立てる
  具体的な支援計画を考える。
  評価方法や評価の時期も決める。
 ⑨支援の実施
 ⑩支援の効果を検証


 このように、さまざまな項目を会議で決め、支援していきます。いじめ事案をむしろ成長するチャンスと捉え、実行していきましょう。

 そして、忘れてはならないのが、周囲の子どもたちです。
 いじめは集団の問題です。被害者、加害者を取り巻く観衆や傍観者が仲裁者へ変われば、いじめはなくなります。いじめを自分の問題として捉えさせることです。たとえ、いじめを止めさせることはできなかったとしても、誰かに知らせる勇気を持つべきであることを教えてください。
 いじめに関する教材を使って授業をしたり、学級全体で話しあったりして、いじめは絶対に許されない行為であることを認識させましょう。

 国の基本方針には、次のように書かれています。

 「学校は、いじめが解消に至っていない段階では、被害者を徹底して守り通し、その安全・安心を確保する責任を有する。学校いじめ対策組織においては、いじめが解消に到るまで被害者の支援を継続するため、支援内容、情報共有、教職員の役割分担を含む対処プランを策定し、確実に実行する」 


 この3か月間で被害者、加害者、周囲の子どもたちに何ができるか、教師は真剣に考え、情熱を燃やして取り組んでください。

12. 定期的に対策会議の定期開催

 謝罪後3か月間は定期的にいじめ対策会議を開催し、再発を防止できているかどうか話し合います。
 重大ないじめ事案では週に一回、軽微な事案でも月に一回はかならず開催し、確認してください。

 ここでのポイントは、会議までに聴き取り調査をしておくことです。
 担当者は、被害・加害者、各保護者から、気になることはないかを聴いておいてください。もちろん、これらの発言や会議の議事録も記録し、残しておきましょう。
 支援が正しく進んでいるのか、修正すべきなのか、いじめが再発していないかなど、複数の教師で確認してください。

 国の基本方針には、次のように書かれています。


「いじめが『解消』している状態とは、少なくても次の2つの要件が満たされている必要がある。ただし、これらの要件が満たされている場合であっても、必要に応じ、他の事情も勘案して判断するものとする。①いじめに係る行為が止んでいること(少なくとも3か月を目安とする)②被害者が心身の苦痛を感じていないこと」

 いじめが解消されているかどうかは、謝罪から3か月後、いじめ解消の定義にもとづいて判断します。
 その際には、被害者および保護者と面談して、解消のための2つの要件を確認してください。電話で済ましてはいけません。
 面談でしっかり確認できれば、いじめ解消です。

 いかがでしたか?
 これが国の基本方針にもとづいた、法的に隙のない対応です。そして、最優秀の学校が実践している、再発を防止できる可能性の高い対応です。
 ぜひ、あなたの学校においても参考にしていただきたいと思っています。