この記事の3行まとめ
- いじめの定義は「子ども同士」「一定の人間関係」「心理的・物理的な影響を与える行為」「被害の子が心身の苦痛を感じている」の4要素です。
- 一番大切なのは4つ目。「1回だけ」「やり返した」「深刻ではない」は、いじめでないと判断する理由になりません。
- 認知件数が多い学校は、悪い学校ではなく「見つけている学校」です。
先生方、突然ですが質問です。次の3つのうち、いじめにあたるのはどれでしょうか。
- 休み時間に、AさんがBさんの筆箱を1回だけ隠した。Bさんは泣いて保健室に行った。
- CさんとDさんが口げんかになり、言われたDさんも言い返した。Dさんはその夜、眠れなかった。
- Eさんは毎日、グループの荷物持ちをさせられている。本人は「遊びだから大丈夫」と言っている。
答えは、3つともいじめとして扱う、です。「えっ、2もですか?」と思った方は、この記事を最後まで読んでください。いじめの定義を正しく知っているかどうかで、子どもを守れるかどうかが決まります。
法律が定める「いじめ」とは
いじめ防止対策推進法(平成25年・2013年成立)の第2条は、いじめを次のように定めています。
「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」
一度読んだだけでは頭に入りませんよね。そこで私は、これを4つの要素に分けて覚えることをおすすめしています。
4つの要素で覚える
| 要素 | 意味 | 現場でのポイント |
|---|---|---|
| ① 子どもが対象 | した側もされた側も児童生徒 | 教師から子どもへの行為は、いじめではなく体罰・不適切指導として別に扱う |
| ② 一定の人間関係 | 同じ学校・学級・部活・塾・地域など | 学校が違っても、塾や習い事でつながっていれば対象 |
| ③ 心理的・物理的な影響を与える行為 | 悪口、無視、たたく、物を隠す、ネットへの書き込みなど | ネット上の行為も含む。好意から出た行為でも当てはまる |
| ④ 心身の苦痛を感じている | された子がつらいと感じている | 最重要。判断の基準は、された子の受け止め |
「一方的」「継続的」「深刻」は、もう基準ではない
平成17年度の調査まで使われていた文部科学省の定義には、「一方的に」「継続的に」「深刻な」という言葉が入っていました。そのため、次のようなケースは「いじめではない」とされてきました。
- された子がやり返した
- 1回だけの行為だった
- 大けがなど深刻な被害ではなかった
今は違います。された子が心身の苦痛を感じていれば、1回でも、やり返していても、いじめです。冒頭のクイズの2番がいじめとして扱われるのは、このためです。もちろん、けんかの経緯は丁寧に聴き取ります。けんかに見えても、背景に力の差やいじめが隠れていることは少なくありません。
定義が変わったことを知らないまま、昔の物差しで「これはいじめではない」と判断している先生は、今も少なくありません。先生方に私がもっとも伝えたいのは、この一点です。
本人が「大丈夫」と言うときは
冒頭のクイズの3番のように、明らかにいじめの行為を受けているのに、本人が否定することがあります。被害を認めることが恥ずかしい、仕返しが怖い、そもそも被害に気づいていない。理由はさまざまです。
国の基本方針では、こうした場合も本人の言葉だけで判断せず、複数の教職員が表情や様子をよく観察し、周りの状況を客観的に確かめて判断するとしています。「本人がいいと言っているから」で終わらせないことが大切です。
「認知件数が多い学校」は悪い学校ではない
文部科学省の調査では、2024年度に全国の学校が認知したいじめは769,022件で、過去最多でした。これを「いじめが増えて大変だ」とだけ読むのは早計です。
文部科学省は、いじめの認知件数が多いことを「いじめを積極的に見つけ、対応を始めている」と肯定的に評価する立場をとっています。逆に、認知件数がゼロや極端に少ない学校は、見逃しているおそれがあります。実際、2024年度に起きた重大事態1,405件のうち34.9%は、重大事態になる前に学校がいじめとして認知していなかった事案でした。
小さなうちに「いじめ」と認知し、組織で対応する。それが、重大事態を防ぐ一番の近道です。
今日からできるチェックリスト
- 4つの要素を、学年や職員会議で一度声に出して確認する
- 「1回だけ」「やり返した」「本人が否定」を理由に、いじめではないと判断していないか振り返る
- いじめかどうか迷ったら、ひとりで判断せず学校いじめ対策組織に報告する
- けんかやトラブルを見つけたときも、背景を聴き取る
次回は、いじめが起きたときに学校がチームでどう動くのか、「学校いじめ対策組織」の作り方をお伝えします。
出典:いじめ防止対策推進法 第2条、文部科学大臣決定「いじめの防止等のための基本的な方針」(平成29年改定)、文部科学省「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」、子どもの発達科学研究所「令和6年度 問題行動等調査結果を受けた現状分析」、荒井隆一『いじめ2.0』第2・3節
