Arasenblog Witten by Ryuichi Arai

子ども100名が平和イベントを開催!〜子どもから大人へ戦争反対のメッセージ〜

PEACE PICKS

私は2012年に小学校教諭として、6年生児童の担任をしました。その1年間は私にとってかけがえのない時間でした。100名の子どもたちとともに、かつてない地域イベント「PEACE FORUM」を開催することができたからです。

この取組は第63回読売教育賞 生活総合の部で最優秀賞を受賞しました。

「子どもたちは可能性の塊である」ということを証明した実践です。また「戦争を今すぐやめてください」という子どもから大人へのメッセージが込められた実践です。ぜひご覧いただきたいと思います。

目次

1.はじめに

戦争を直接体験した世代の高齢化とともに、次世代を担う子どもたちに、戦争や平和についての認識を育成することの重要性はますます増加してきています。

今こそ「戦争のない世界」に向けた実践的研究の充実が求められてきています。

今から、2012年に兵庫県三田市の小学校で実際に行なった実践を紹介します。

6年生100名が、広島への修学旅行で戦争の悲惨さと平和の尊さを学び、地域の人々に発信しようと「PEACE FORUM」開催に至るまでの成長の軌跡を報告します。

 

2.「フィールド総合」と称して

当時、勤めていた小学校の総合的な学習は、「フィールド総合」を4年生以上の学年で30時間程度を実践していました。

校外学習等において「目的地ならではの魅力を探り、直接体験を通して、多角的なものの見方や考え方を身につけさせる取組」を行なっていました。

4年生では兵庫県の淡路島への校外学習、5年生では4泊5日の丹波市青垣への自然学校を通して「現地の魅力を探ろう」をテーマに実践。そして6年生では広島への修学旅行を通して「広島の魅力を探る」をテーマにしたフィールド総合を実践していました。

学習指導要領の「総合的な学習の時間の取扱い」には「自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質を育てること」とねらいが示されています。

当時の学校では、このねらいに示されている「主体的」な学習活動が展開されるように基本的な学習過程を「現地の魅力を調査」→「ランキングによる魅力の絞り込み」「魅力を味わう計画」→「現地の魅力を直接体験」→「魅力を発信」と設定していました。

 

3.子どもの実態

 実践報告する6年年生は、3年生の時、学級が大変な状況に陥っていました。

教師に対しての暴言、授業妨害、3 学期には複数の教師が教室に入らないと授業が成立しない状態にまでに。

いじめ事件や 窃盗事件も起こり、問題は学年にも広がっていました。

理不尽な言動が横行するようになり、自分の意見をもっていても発言しにくい空気に覆われていました。

学校で実施している自己肯定感アンケー トでは「自分には良い所があると思いますか」の項目は、どの学年よりも低い値を示していました。

 

4.フィールド総合で自己肯定感を高めたい

そんな彼らは6年生を迎えました。

小学校生活最後の思い出になる「修学旅行」を通して行うフィー ルド総合で「自己肯定感」を高めてやろう!

3人の担任集団は決意したのです。

では、自己肯定感を高めるためにどうすればいいのか?

6年生の担任で話し合った結果、次の2点を子どもたちに実感させることが大切ではないかと考えたのです。

 

 「信じてくれていると実感をもたせること」と「やればできるという自信をもたせること」。

 

まず、何よりも自分のことを決して見捨てないで可能性を信じてくれる人がいてこそ、自己肯定感は育まれるのではないか。

また、自分が無理だと思っていた課題を乗り越えたとき、「私はやればできるんだ!」という強い自信と誇りが生まれます。

「自分で決めた」「自分で乗り越えた」という自信が、自己肯定感を育むのではないかと考えたのです。

そこで、これらを実感させるために、フィールド総合では「子どもを信じる」「子どもが真剣に考えたことはやらせてみる」「成功を確認して褒める」「皆で認め合う」。

そして学んだことを発信する場面では、十分な時間と場所をあたえて「話し合いを大事にする」「最後までやりとげさせる」ことを実践しようと決めたのです。

さらに、学年や学級通信をこまめに発行することも決めました。保護者にも子どものがんばりを褒めてもらいたいと思ったからです。

 

 

5.フィールド総合「広島の魅力を探ろう」の実際

(1) 現地で直接体験までの流れ

①テーマを提示する

 修学旅行が 9 月下旬を予定していることもあり、夏休み前に学年集会を開き、2 学期に行う総合的な学習のテーマについて確認しました。

修学旅行の場所は「広島」で、テーマは「広島の魅力を探ろう」であることを告げました。

子どもたちは、これまでに「フィールド総合」を4年生の淡路、5年生の青垣で経験しています。

今回は広島という遠隔地での学習に興奮している子どももたくさんいました。

この学習はみんなが主体的に進める活動にしていきたいことを強調して伝えました。

 

②「広島の魅力」を調べる

広島の魅力の調べ学習は、総合の授業の中でも2時間程度は行いましたが、中心は「夏休み」でした。

実際に上がってきた「広島の魅力」は図1の通りです。

 

③ランキングによる広島の魅力の絞り込み

広島の魅力にランキングをつけることにより、広島でしか味わえない魅力を検討していきました。

まずは個人で「広島の魅力」をベスト3 に絞らせます。その時、なぜこの順位にしたのか?という理由づけを大切にしました。

次に学級で「広島の魅力ベスト5」を決定させます。

安易に初めから多数決で決定するのでなく、どうしてこれを魅力1位に選んだのかを全員に発言させる時間をたっぷりとりました。この話し合いが、自分と友達の価値観が交差し、何を大切にしなければいけないのかをそれぞれが深く考える時間になるからです。

子どもたちは最終的に図2のように「平和に関すること」と「歴史ある宮島」を上位にしました。

 

④修学旅行実行委員会の結成

 各学級2名を選出し「修学旅行実行委員会」を結成。

各学級の「広島の魅力ベスト5」をもとに実行委員会が修学旅行の2日間のコースを決定。(図3)

 

⑤個人で、どのコースに行くかを決定

子ども自身が体験したいコースを選択。

 

⑥当日の活動班を決定

子どもの希望をもとに教師が活動班を決定。(1日目21班・2日目24班)

 

⑦活動班ごとに「当日の具体的な活動計画」を立てる

 決まった活動班ごとに具体的な活動計画を立案。

  • 何の魅力を味わうのか。
  • 何時にどこを体験するのか。
  • 代金はいくらか。
  • どこでトイレ休憩をとるのか。
  • どこで昼食を食べるのか、何を注文するのか。

等々をインターネット、本、雑誌等で詳細な計画を立案。

 

⑧活動班ごとに「目標」「役割分担」を決定

 班の行動目標・班長は誰がするか・時計、カメラ、救急セットは誰がもつのか等を決定。

 

⑨計画の実行

 修学旅行では、班ごとに立てた計画案をもとに、子どもたちが主体的に活動することができました。

 

(2) 味わった魅力を何のために誰にどう発信するのか?

①一番伝えたいことは「長尾ナツミさんが教えてくれた戦争の悲惨さ」

修学旅行後、「味わった魅力を誰にどう伝えるのか?」を話し合わせました。

広島焼、紅葉饅頭の美味しさ、厳島神社の荘厳さ、宮島の美しさは、広島ならではの素晴らしい魅力だったと。

しかし、子どもたちの多くは、一番伝えたいのは長尾ナツミさんの被爆体験だというのです。

被爆体験を語る長尾ナツミさん

  • 【長尾ナツミさんの話】
  • 語り部の長尾ナツミさんの被爆体験を聞く子どもたちの眼差しは真剣そのものだった。
  • 長尾さ んは14歳の時、爆心地から1.4km離れた中学 校の校庭で被爆。全身火傷を負い、皮膚はドロ ドロに溶けてしまった。
  • 一時は生きる希望を失い、自殺も考えたそうであるが、両親の愛情に包 まれて、「前を向いて生きていこう」と決意。
  • その後、世界的に有名なデザイナー森英恵のアシス タントとして活躍されたというお話だった。
  • 本当に感動した。途中、子どもたちの席まで足を運び、「見て、こんな傷が残ったの」と、ケロイドになっ た火傷のあとを見せながら、「絶対に戦争はしな いでね」と繰り返し、一人ひとりの子どもに声をかけてくれた。
  • 会場は“シン”と静まり、子どもは深くうなずいていた。「学びの心に火がついた」瞬間だった。
  • 長尾さんは最後に「平和はね。遠く にあるのではないのよ。足元にあるの。目の前の友達と仲良くなることから始めるのよ」とおっし ゃり、講演は終わった。
  • その場に居合わせた教師も含め、皆、「戦争は絶対にしてはならない」と深く心に刻んだ。

※参考 【被爆証言】91歳 元デザイナー・長尾ナツミさんが込める思い “苦しい思いさせたくない…” 広島 NNNセレクション

②誰がどのように伝えるのか

 「君たちが考えた通りにやってごらん。応援するから」

と励まし、各学級や学年集会を開いて、 たっぷりと時間をかけて話し合わせました。

子どもたちの自己肯定感を高めると考えた「信じられている」「やればできる」2つの実感を、何としても味わわせたいと思ったからです。

さらに、各学級2名からなる「平和実行委員会」を結成して、学習活 動を焦点化させ、次の大綱が決まりました。

子どもたちは希望するグループに入って活動することになりました。

平和実行委員会は、毎日、休み時間に集まって、各グループの進行状況を確認したり、課題を話し合ったりすることになりました。

 

(3) PEACE FORUM開催に向けた児童の取組

【開催ビラを校区内で2000枚配布】

実行員会メンバーが参加を呼びかけるビラを作成し、放課後、地元の駅、公民館、市民センター等の公共施設や商業施設に置かせてもらうために走り回りました。

また、校区内に住む大人に参加を呼びかけようと、子ども1人につき10枚のビラをご近所に配布することも決定。

放課後、友達とペアになって一軒一軒訪問して参加をお願いしていきました。

そんな中ハプニングが起こったのです。

勢い余った児童が駅前で「ぜひ参加してください!」とビラを配布したのです。

やる気になっている気持ちはうれしいのですが、事故につながったらどうしようかとヒヤヒヤしました。

しかし、子どもは本気でした。見ていて心が揺さぶられました。

地域に2000枚配布したビラ

地域に2000枚配布したビラ

 

【放送委員会が地元 FMラジオ放送局で参加を呼びかけ】

子どもたちの意欲はこんな行動も生まれました。

「放 送委員会」の6年生が、地元の放送局ハニーFMの番組に出演依頼をしたのです。

放課後、放送委員会の代表が地元の放送局を訪問し、職員の人に「修学旅行で学んできた平和の尊さを地域に住む人にうったえる会を開催するので参加を呼びかけたい」と説明。子どもたちの真剣なうったえに放送局が了承。

ハニーFMの番組「Honey Sound Cafe『カフェテラス』」で、「PEACE FORUM」についてリスナーに広く呼びかけることができました。(放送日は2012年12月12日(水)15:10 ~ 15:40)

放送局で「PEACE FORUM」の参加を呼びかける放送委員会のメンバー

【各グループの取組】

①劇グループ「冬は必ず春となる」

 劇グループのメンバーは「PEACE FORUM」 で、長尾ナツミさんの被爆体験を劇で再現したいと考えました。

その劇を通して、原子爆弾の恐ろしさや戦争の残酷さ、人の悲しみや憎しみ、そして人の強さを伝えたいと子どもたちは真剣でした。

劇の台本は、6 年担任が作成したものを子どもがアレンジして完成させました。

照明係や舞台転換係、 音響係も作りました。役はオーディションで決めました。

子どもたちは総合的な学習の時間だけでは間に合わないと、朝の時間や昼休み、放課後にも練習を重ねていきました。

「本格的な劇にしたい!」との子どもたちの熱い思いに触れて教師も決意。

芝居経験がある当時の本小学校職員から演技指導をしてもらう機会が実現。

地元の劇団から衣装を借りることもできました。子どもたちの演技はメキメキと上達していきました。

「劇 冬は必ず春となる」練習場面

 

②紙芝居グループ「戦争のない世界へ」

 紙芝居グループは、劇と同じく、長尾ナツミさんの被爆体験を伝えたいと考えました。

3つの班に分 かれて、3作品を作りました。

どれも長尾さんの被爆体験の紙芝居だが、それぞれ少しずつ表現が違っています。

当日はこの中の1作品を紹介しました。

この紙芝居は、これから入学してくる後輩たちにも読んでもらいたいという願いから、小学校図書室にずっと置いてもらうことになりました。

 

 

紙芝居「戦争のない世界へ」作成場面

 

③ポスターグループ「PEACEポスター」

 ポスターグループは、「PEACEポスター」を作成し、小学校内の掲示板や地域内の施設の掲示板にお願いして掲示させてもらう取り組みを行いました。

それぞれのポスターの下には「絶対に戦争はしてはならない」という文章もそえました。PEACE FORUM当日は、全ての作品を会場内に掲示し、代表2作品をピックアップして、「どんな思いを込めて描いたのか」を作者が参加者に説明しました。

 

「PEACEポスター」作成場面

 

④歌グループ「私は生きてゆく」

 歌グループは、子どもが作詞作曲して「私は生きてゆく」を完成させました。

作成にあたって子どもたちは、「長尾さんが私たちに伝えたかったことは何か」「今後、わたしたちはどう生きるべきなのか」といった願いや思いを詩に表現する作業から始めました。

そして完成させた詩にメロディーをのせていきました。

楽譜は子どもたちの願いを受けて音楽専科の先生が書き起こしてくれました。

完成した歌を「PEACE FORUM」当日に向けて、各学級で朝の会で練習する取り組みも始まりました。子どもたちからは「この歌を生涯大切に歌い続けたい!」そんな言葉が聞こえてきました。

 

⑤平和宣言グループ「平和宣言」

 平和宣言グループは、これからの生き方を宣言する文章をどう作成するかを話し合うところから始めました。

長尾さんから教えてもらった原子爆弾の残酷さ、原子爆弾にも負けなかった人間の強さ、長尾さんが自分の忌まわしい記憶をさらけ出して、ひどい火傷をみせてまで、平和の願いを私 たちに語ってくれた熱い思い、そしてその思いを受けた自分たちの決意を表現することに決まりました。

また「平和への誓い」と題して、「戦争のない世界の実現」に向けて、私たちが生涯生きていくための指針を決めました。子どもたちだけでなく、教師もこの誓いを果たす生き方を誓いました。

完成した「平和宣言」と「平和への誓い」は次の通りです。

 当日はこの「平和宣言」を発表し、「平和の誓 い」を6年生全員で暗唱しました。

平和宣言をする子どもたち

 

(4) 当日の様子

 「PEACE FORUM」当日は地域の人だけで約100名の方が会場に参加してくれました。

子どもたち は、受付係や会場への誘導係まで作って参加者を出迎えました。

「今日は来てくれてありがとうございます!」

あちらこちらで子どもの元気な声が響きました。

近所の子どもから誘われて参加してくれた人や、近所を歩いていたところ、子どもからビラもらったので来てくれた人など、会場は子どもたちの思いに触れて集まった参加者で席が埋まりました。

多くの希望者からオーディションで決まった司会者の元気一杯の第一声で会は始まりました。

劇、紙芝居、合唱、ポスター紹介、平和宣言すべてが情熱にあふれていました。

涙を流して聞いてくださる参加者がたくさんおられました。

教育委員会の方をはじめ、地域の見守り隊の方も駆けつけてくださりました。

新聞社1社が当日の模様を報道しました。

子どもたちの呼びかけで参加してくれた地域の皆さん

受付で地域の方を迎える子どもたち

歌「わたしは生きてゆく」合唱場面

紙芝居「戦争のない世界へ」

劇「冬は必ず春となる」 ナツミと父親が再会する場面

「PEACE ポスター」作成の経緯を述べる様子

当日は「PEACE ポスター」30枚を展示した

 

(5) 参加者の感想

 参加者に書いてもらったアンケートには、

「君たちの熱心さが伝わり、今日、参加させてもらいました。紙芝居、ポスター、歌、劇、どれをとっても立派に仕上がっていました。一人一人がこの平和を築くために語り継いでいかなければならないと強く感じました。ありがとう」

「皆さんの取り組みを見せていただき、大人の私たちも考え直さないといけないと思いました。大人の世界でも色々なことがあり、時には仲良くできないことがあります。それではいけないと思いました。ありがとう」

等々、感謝の言葉や平和の大切さを改めて考えさせられたとの感想が書かれていました。

子どもたちの想いは確かに地域の人たちに届いたようでした。

 

(6) 第2回PEACE FORUMに発展

翌日、会に参加された地域の商業施設の理事長さんから「これを一回で終わらせるのはもったいない。私の商業施設を無料で提供します。ぜひ第2回を開催してほしい」と学校に連絡がありました。

第2回PEACE FORUM開催の依頼でした。

教師で検討した後、 子どもたちに意見を聞くことにしました。

子どもたちは「ヤッター」と大騒ぎ。

さらに多くの地域の方々に伝えたいと思いは一つでした。

そして2013年 1月30日に開催することが決まり、おまけに「会場前のギャラリーも自由に使ってほしい」とのこと。

子どもたちは「戦争のない世界へ〜私たち100名の誓い〜」と題した展示会も開催することも決めました。

 

(7) 展示会「戦争のない世界へ〜私たち100名の誓い〜」開催

「第2回PEACE FORUM」に向けての子どもたちの話し合いは真剣でした。

展示物は、平和ポスター、紙芝居、「わたしは生きてゆく」の歌詞、平和宣言文などの子どもの作品に加えて、これまでの学習の流れを紹介した掲示物、核兵器保有数の実態を調べた研究物、「100名の誓い」、広島平和記念資料館からお借りした原爆の惨状を伝えるポスターという充実した内容が決まりました。

子どもたちは、作品を丁寧に仕上げようと、空いている時間を、その作成のための時間に費やしました。

圧巻は、6 年生全員が綴った「100 名の誓い」でした。

一人ひとりがこれからの自分の生き方を記述したもので、その内容は、どの子も世界市民として身近な平和から実現していくという決意みなぎる言葉がちりばめられていました。

展示期間は2013年1月23日~ 2月5日までの2週間に決まりました。

開催前日の1月22日の放課後に子どもたちと共に準備をしました。

放課後、展示物を掲示する子どもたちの様子

展示会「戦争のない世界へ〜私たち100名の誓い〜」2週間でのべ1 万人以上に見てもらうことができた

※展示会「戦争のない世界へ〜私たち100名の誓い〜」の内容 PDF

(8) 第2回PEACE FORUM当日

 迎えた当日。劇の主役の一人がインフルエンザで欠席するというアクシデントも起こりましたが、全員で支え合い、子どもたちは第1回よりもさらに思いを込めて「平和の尊さ」をうったえていました。

子どもたちにとってのサプライズは、長尾ナツミさんからのメッセージでした。

事前に私が長尾さんに連絡をとってメッセージを頂いていたものでした。

その長文のメッセージの最後に「小さな想いが集まって、大きな立派なことをされたかと思うと本当に感動しました!」との言葉に、子どもたちは心から喜んでいる様子でした。

長尾ナツミさんより伝言メッセージも届きましたのでご紹介させていただきます。子どもたちへの愛情で溢れています。心から感謝です。

 

当日の模様は、新聞社3社が報道しました。

子どもたちが平和への思いを形にし、一人ひとりに訴えていけば、地域に波動を広げることができるということを、子どもたちはもちろん、教師にも地域の方々にも示すことができたのです。

子どもが変われば大人が変わる。地域が変わる。

子どもたちの活動に心が揺さぶられる思いでした。

 第2回 PEACE FORUMは新たな100名の参加者が集い、大成功で幕を閉じました。

2 週間にわたった展示会は、のべ 1 万人以上の地域住民に見てもらうことができました。

「平和の種」は子どもたちによって地域へと蒔かれたのです。

第2回PEACE FORUMの様子

第2回PEACE FORUMの会場の様子

「PEACEポスター」を紹介する様子

劇「冬は必ず春となる」ナツミが「私は死なない」と決意する瞬間

「平和宣言」をする様子

6 年生一人ひとりがこれからの生き方を誓った展示物「100名の誓い」

核兵器保有数の実態を調べた掲示物

 

6.取組の成果と課題

【自己肯定感アンケートから】

6月と1月に「自己肯定感アンケート」を実施しました。

その中で「自分にはよいところがあると思いますか?」の質問に対しての答えは、

「たくさんある」「ある」は50%から68%に増加し、「あまりない」「ない」は減少していました。

フィールド総合に取り組んだ結果、全体的に自己肯定感が高まったといえる値を示しました。

【子どもの作文から見えた変容】

  • わたしは先生に感謝しています。修学旅行の活動計画や「PEACE FORUM」を開催することも全部私たちの意見をもとに進めることができたからです。この6年生で私はよい思い出を作ることができました・・・(女子)
  • 自分たちで作り上げてきた「PEACE FORUM」。先生たちもすごく協力してくれ た。おかげで最高の結果で終えることがで きた。平和の大切さ、命の尊さを学べた 学習だった。世界中の人がわかってもらえ ると地球が平和になるので、まずは身近な 人たちにそれを伝えたい・・・(男子)
  • 司会者が「以上をもちまして PEACE FORUM を終了いたします」と言った時、 ぼくは心の中で「やりきったぞ!」とさけん でいました。劇の練習もがんばったし、会 場にはぼくがさそったおじさんもきてくれて いた。本当にうれしかった・・・(男子)
  • 参加者アンケートの中には「驚」「大成 功」「一生懸命」「感動」「涙」などのこと がよく書いてあり、どこにもひはんの声は ありませんでした。それはすごい PEACE FORUM になったんだなぁ~と身にしみ て感じることができました。・・・(女子)
  • これまでずっとおこられてきたし、やる気 もなかったけど、おれらけっこうやるやんっ て思った。みんなの前で代表として発表で きてうれしかった。自信がついた。中学で もがんばろうと思った。・・・(男子)

この学習で子どもたちは、自分の意見が尊重 されていたことや達成感があったことを実感して いるようでした。

さらにこの学習で自信が持てたと述 べている子もいます。

多くの子どもたちがこれらと同じような趣旨の作文を書いていました。

これは教師がこの学習のねらいと合致します。

教師が大切にしてきた「信じてくれていると実感をもたせること」と「やればできるという自信をもたせること」が子どもの心に伝わっていたようです。

また、次のような記述も多く見られました。

  • 長尾ナツミさんが話をしてくれたからここ までできたんだと思います。私たちに「戦争 は絶対にしないでね」と、腕の火傷を見せ て話してくれたことにありがとうと言いたい です。これから平和宣言で言った平和な社 会にしていけるように生きていきたいです。・・・(女子)
  • 長尾さんが「私の話をこのように活用し てくれたんだなぁ」と思ってもらえたらす ごくうれしいです。PEACE FORUM を 100人で大成功にみちびけたことが本当 にうれしいです。(女子)

「長尾さんのおかげで・・・」という、長尾さんに対する感謝の思いを書いているのです。

「何を発信するのか」のところでも述べましたが、被爆体験を語っていただいた長尾さんの話は「戦争の残酷さ」を実感できる力がありました。

さらに長尾さんは、 自分の忌まわしい過去をさらけ出して、ひどい火傷をみせてまで、平和への熱い願いを語ってくれました。その長尾さんの情熱が子どもの心を揺さぶったと思えてなりません。

やはり戦争を直接体験した人の話は貴重です。

 

【保護者アンケートから】

12月に「保護者アンケート」を実施しました。

その中で「子どもは楽しい学校生活を送っているか」と「学校は、命や一人ひとりの人権が尊重され、豊かな心を育てる教育を進めている」の質問に対して、「よくあてはまる」「あてはまる」を合計した割合は、それぞれ97 %と94 %という高い値を示していました。

前年度と比較するデータはありませんが、この高い数値は、今回の取り組みを通して、学校への信頼が高まってきていることを示しているのではないかと喜んでいます。

 

【学年・学級通信の返信から】

  • 「PEACE FORUM」に向かって、子ども たちが一つになって創り上げようとしてい る様子がよくわかります。いつもありがとう ございます。娘が家でも紙芝居作りの苦労 や友達ががんばっている様子を毎日話して くれています。当日は必ず行きます。
  • 「お母さん絶対に来て!」という息子のお 願いで、仕事をやりくりして参加させてい ただきました。「PEACE FORUM」素晴 らしかったです。これだけのことをやろうと すると、大変な苦労があったことだろうと 感動しました。平和について私も考えるきっ かけをいただきました…。
  • 「PEACE FORUM」に参加して、6年生 一人一人の平和に対する思いが本物だとい うことが、伝わってきて胸が熱くなりました。「平和は身近な足元から」と言った子ども の発言を聞いて、私自身も良き世界市民と して思いやりの行動を日頃から実践してい こうと思いました。今日、参加できて本当 によかったです。ありがとうございました。

学級通信で児童の作文を紹介

 これらの文章から、子どもたちは学習の内容を 家でもよく話していることがうかがえます。

また、子 どもたちの取り組みによって、保護者も身近な場 所から思いやりの行動を実践していこうとする決意もうかがえます。

子どもの真剣な取り組みが親にも波及しているようです。

学年通信で「PEACE FORUM」の取組を紹介

 この他にも、学校での活動の様子を詳細に報告する通信に対する感謝の言葉や、家でも子どもに学校での熱心な活動を褒めてくれたといっ た内容の返信を多数いただきました。

自己肯定感を向上させる支援を学校だけでなく、家庭でも実践してくれていたのだと感じました。

通信等で子どもた ちのがんばりを詳細に伝えるという取り組みの成果だと思いました。

【地域の方の感想から】

  • 30 年前、私も修学旅行で広島に行き「平和」について学びました。今回の「PEACE FORUM」に参加させていただき、当時、 純粋に平和を願い、祈った気持ちを思い出しました・・・今、中国や韓国との関係が心配される中、私自身、もう一度「平和」について真剣に考えたいと思いました。
  • 門に一歩入った所から案内をしてくださり、 びっくりしました。小学校の体育館の入り口がどこなのか心配しながら来たのですが、そんな心配など、まったくいらないスタートでした。「PEACE FORUM」の歌、劇、紙芝居、DVD、そのほかの発表、本 当に素晴らしかった・・・
  • ビラ配りがよかったと思います。○○くんの訪問によるお願いで今日、参加させていただきました。1軒1軒ピンポンして説明して来ていただくなんて、とても社会勉強になっていたと思います。今日の案内係も素敵でした。来てよかったです。子どもたちでこんなことができるんですね。

 この文章からは、子どもたちの訪問で参加しようと思われた人がいたこと、小学校に初めて来た人がいたことがうかがえます。

また、子どもたちの取組を見て、平和について考えるきっかけにしている大人もいたようです。

「PEACE FORUM」の中でも、参加者からこれらの感想をいただきました。

さらに「第2回 PEACE FORUM」に発展したのは、第1回に参加した地域の方が、子どもたちの真剣な取組に感動したことがきっかけになりました。

これらは子どもたちの情熱が地域の人の心を動かしたことを証明しています。

参加した感想を述べる地域の方の様子

 

【展示会の片付けの日に出会った地域の方】

 2月6日。展示会が終了し、子どもたちと掲示物を外していると「先生ですか?」と、見知らぬおじさんから声をかけられました。

近くに住んでいる方だという。

「この展示は、ずっとおいてほしいなぁ。片づけるんか・・・。この前のフォーラムに参加したけど、素晴らしかったなぁ。劇なんか役に入り込んでたもんな。子どもたちは本気やと感心したわ。わしの知っている市議会議員にも、『この展示見に来い!』いうて、こさせたんやで。いやぁ、立派やったわ。先生、この取組は今年だけで終わりですか? 毎年、この辺の学校と一緒になってやったらええねん」

と、いきなり話しかけられたので、本当に驚きました。

でも本当にうれしく思いました。

地域の方の心にも平和の火が灯ったことを実感した瞬間でした。

 以上、これらの結果から、フィールド総合を実践する中で、信じてくれていると実感をもたせ、やればできると自信をもたせることは自己肯定感を高めることに有効であること。また自己肯定感を高めるための手だてとして、「子どもを信じること」「子どもが真剣に考えたことはやらせてみること」「成功を確認して褒めること」「皆で認め合うこと」、そして「子ども同士で話し合わせること」「最後までやりとげさせること」は有効であること。さらに子どもの平和実現のための行動の気づきは、大人にも波及し、地域を変えていく力にもなりゆくことが実証されたと考えています。

 課題としては、子どもたちの自己肯定感の向上のために、今後更に子どもたち主体の教育活動を様々に実践し、発信し続けていくことが肝要だと考えています。

 

7.終わりに

 卒業式の日。「別れの言葉」という子ども自らが考えた長文を一人ずつ述べていく場面で、家族を始め、教師、地域の方々、友達、後輩への感謝の言葉が続いた後、

子どもたち100名が、

「戦争のない平和な世の中を築いていきます!」

と叫びました。

どの子の表情も晴れやかでした 。

最後にサプライズで、6 年生の担任は一人ひとりの子どもから手紙を綴ったアルバムをもらいました。

その手紙には、

「先生、PEACE FORUMの時も、みんなの意見を真剣に考えてくれてありが とう・・・」と書かれていました。

目の前の子どもは時として信じがたい言動をとるときがあります。

そんな時でも、まず教師が子どもの可能性を信じ切る勇気を持たねばなりません。

子どもが教師・大人が信頼の絆で結ばれたとき、その成長を喜び地域の方々の心を動かすことができるのです。

それを教えてくれた100名の子どもたちに心から感謝しています。

「ありがとう」。

 

 

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動画「PEACE FORUMダイジェスト版」

動画「第2回PEACE FORUMで上映した動画」

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